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2021年 藝祭テーマ

現在、私たちの生活は未知なる感染症の存在なしには語ることができません。

藝大生の学生生活も例外ではなく、受験生の頃に憧れたキャンパスライフは否定され、昨年度藝祭も通常開催は中止と判断されました。さまざまな不安を抱えたまま受け入れた「オンライン授業」や「リモートワーク」は、いつの間にか聞き慣れた言葉となっていきました。実際的な経験を通して学ぶことを望んでいた学生のなかには、不安や不満とともに授業のための通信機器・カメラ・マイクのスイッチをONにする人も多かったように思います。

本年度の藝祭のテーマ「ON-」には、伝統的な藝祭の歴史の上に重なりつつ 、on-lineや on-demand、on-airといった新しい形を迎え、これから先「onward」の世界へと進んでいくための希望が込められています。

学生の作品や演奏といった表現活動をはじめ、「藝大とはどんな場所か」を世界に発信する場としての藝祭が、2021年の社会に彩りをもたらし、人々の原動力となるスイッチを「ON」にすることを願っています。

オープニング
メインビジュアル
メインビジュアル作成者・矢野 那彩(工芸科学部2年)
ごあいさつ

真田 将太朗 / 2021年度 藝祭実行委員長

本年度の藝祭も多くの制約を抱えたなかでの開催となりましたが、実行委員会は新しい時代の芸術祭のありかたを社会に先立って考え、出来る限り最良の形を目指し準備を進めてまいりました。
この場を借りて、開催までご協力いただいた全ての方々に、心より御礼申し上げます。私たちの藝祭が、困難な時代に生きる人々を楽しませる場となることに、願いを込めて。

ごあいさつ

澤 和樹 / 東京藝術大学長

Onを感じるほどに!昨年春以来のコロナ禍の中、2度目の藝祭です。昨年は、オンラインのみによる「バーチャル藝祭」、今年は当初、オンラインと対面のハイブリッドでの開催を目指していましたが、「緊急事態宣言」の延長で今年もまたオンラインのみとなりました。藝祭に向けてのメインイベントとも言える御輿制作や法被制作も中止を余儀なくされました。とりわけ現2年生や新入生にとって、キャンパスライフを実感することが難しい状況が現在も続き、大きな試練です。しかし、歴史を紐解くと、奈良時代の天然痘大流行の後に天平文化が、そして中世ヨーロッパのペスト大流行の後にルネッサンスが花開いたようにパンデミックの後にこそ人々は芸術を求め、救われて来ています。私は「試練は芸術を育てる」という言葉を信じています。コロナに翻弄される人生を怨むのではなく、後で振りかえってコロナ禍によって育てられたとすら思えるよう、今を大切に過ごしたいものです。
怨(On)ではなく恩(On)を感じるほどに!

安良岡 章夫 / 理事・副学長(教育担当)

藝祭2021に寄せて今年の藝祭は、オンライン上と上野校地を合わせての開催として計画がスタートした。残念ながら、後者の計画は感染者の急増により中止が余儀なくされ、毎年伝承されるべき御輿制作も断念せざるを得なかった。しかしどんな形であれ、実行委員会の言う「藝大とはどんな場所かを世界に発信する場としての藝祭」であって欲しいと願う私としては、テーマ『ON-』の「-」の部分に注目したい。そこに肯定的な言葉が浮かんで来るようなワクワク感が伴い、否定的な単語が入ろうとも難なくそれを乗り越える力感溢れる藝祭であって欲しい。更に言えば「-」などは必要のない、スイッチ『ON』の多彩なアートの世界が、3日間に渡りオンライン上に繰り広げられることを切に願っている。

清水 泰博 / 理事・副学長(研究担当)

藝祭2021に向けて未だ「宇宙船地球号」はCOVID-19の混乱の中にあります。そしてその中での2度目の藝祭を迎えます。少しはこの環境の中での活動の仕方が分かってきた感はありますが、確実に我々の生活は新たなフェーズに入ったことを多くの人が実感しているのではないでしょうか。その中で美術や音楽や映像の活動の仕方にも変化が生まれ、新たな表現や方法が出てくることでしょう。
今までの人類の歴史の中で多くの苦難の中から新たな表現が生まれてきたように、逆境の中から新たな芸術表現が生まれ、それがその後の多くの人々の心の糧となっていくことを期待しています。
今年の藝祭はそのような活動へのスタートのスイッチが「ON」になる契機でしょうか。今まで見たことのなかった新たな試みや表現が見られるように、こんな時だからこそ若い力で新たな扉をこじ開け、芸術の幅を大きく広げてくれることを期待しています。